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福岡地方裁判所 平成7年(ワ)1017号 判決 1997年6月11日

原告

南海辰村建設株式会社

(合併前の商号株式会社辰村組)

右代表者代表取締役

芝谷昭

右訴訟代理人弁護士

髙橋紀勝

土井隆

被告

大和ファクター・リース株式会社

右代表者代表取締役

加藤勝藏

右訴訟代理人弁護士

古賀和孝

露口佳彦

佐々木信行

小野博郷

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  福岡地方裁判所平成三年(ケ)第二五八号不動産競売事件、同年(ケ)第三八七号不動産競売事件及び同四年(ヌ)第一〇九号不動産強制競売事件について、同裁判所が作成した別紙配当表のうち、被告に対する配当額九〇六九万七五六五円とある部分を九三八万〇四七九円に、原告に対する配当額六九七万三八四六円とある部分を八八二九万〇九三二円に、それぞれ変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  配当事件

(一) 被告は、福岡地方裁判所に対し、訴外破産者平成建設株式会社(以下「破産者」という。)所有の別紙物件目録記載一1及び2の各不動産について競売の申立てをし、平成三年(ケ)第二五八号として係属した。

(二) 被告は、福岡地方裁判所に対し、西尾福蔵所有の別紙物件目録記載一3及び4の各不動産について競売の申立てをし、平成三年(ケ)第三八七号として係属した。

(三) 破産者の破産管財人岩本洋一は、福岡地方裁判所に対し、破産者所有の別紙物件目録記載一5ないし7の各不動産について強制競売の申立てをし、平成四年(ヌ)第一〇九号として係属した(以下、別紙物件目録記載一の各土地を併せて「本件土地」という。)。

(四) 本件土地は売却され、代金納付に基づき、平成七年三月二二日に配当期日が開かれた。

2  配当表の内容

右1(四)の配当期日において作成された別紙配当表(以下「本件配当表」という。)には、本件土地の売却代金のうち手続費用を除いた残額九七六七万一四一一円について、九〇六九万七五六五円を被告に、六九七万三八四六円を原告に配当する旨記載されている。

3  被担保債権及び商事留置権の成立

(一) 原告と破産者は、平成三年二月二八日、営業のために次のとおり宅地造成工事の請負契約(以下「本件宅地造成請負契約」という。)を締結し、原告は直ちに工事場所である本件土地の引渡しを受けて着工し、同年五月末日ころまでに同工事の施工を完了し、その後本件土地の占有を継続している。

工事名 大野城市旭ヶ丘造成工事

工事場所 本件土地

請負代金 八五四万九〇〇〇円

支払方法

平成三年三月一三日 二五〇万円

完成時 六〇四万九〇〇〇円

しかし、原告は、破産者から右請負代金の内金二五〇万円の支払を受けただけで、残額六〇四万九〇〇〇円の支払を受けなかった。

したがって、原告は、破産者に対し、本件宅地造成請負契約に基づき、六〇四万九〇〇〇円の工事残代金支払請求権を有する。

(二) 原告と破産者は、平成二年一二月一七日、営業のために次のとおり建物建築請負契約(以下「本件建物建築請負契約」という。)を締結した。

工事名 春日平成館新築工事

工事場所 別紙物件目録二記載の土地

請負代金 二億一一一五万円

支払方法

契約成立時 二〇五〇万円(現金)

二〇五〇万円

(約束手形九〇日)

上棟時 二〇五〇万円(現金)

二〇五〇万円

(約束手形九〇日)

完成引渡時 六四五〇万円(現金)

六四六五万円

(約束手形九〇日)

破産者は、平成三年七月一一日に破産宣告を受けたものであるが、原告は、同年六月一三日までに一億〇七六八万六五〇〇円の工事出来高を施行し、別紙物件目録三記載の未完成建物を建築した。

原告は、破産者より契約成立時払の金四一〇〇万円の支払を受けただけで、上棟時払の金四一〇〇万円の支払を受けていない。さらに、破産管財人岩本洋一が原告に対し、平成三年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をしたことにより、右完成引渡時払に対応する出来高についても弁済期が到来した。

したがって、原告は、破産者に対し、本件建物建築請負契約に基づき、差引六六六八万六五〇〇円の工事残代金支払請求権を有する。

(三) 原告は破産者に対し、本件宅地造成請負契約に基づく六〇四万九〇〇〇円の工事残代金請求権及び本件建物建築請負契約に基づく六六六八万六五〇〇円の工事残代金請求権並びにこれらに対する損害金一五五五万五四三二円の合計八八二九万〇九三二円の債権(以下「本件債権」という。)を有する。

商法五二一条による商人間の留置権(以下、本件において「商事留置権」とは、商人間の留置権を指す。)には被担保債権と占有目的物との牽連関係は不要であるから、原告には、本件債権全体を被担保債権として、本件土地についての商事留置権(以下「本件商事留置権」という。)が成立する。

4  配当異議の申出

原告は、本件競売事件にかかる平成七年三月二二日午前九時四五分の配当期日において、本件商事留置権を主張して、被告に対する配当額のうち九三八万〇四七九円を超える部分を取り消し、これを原告の配当額に加えるべき旨異議を申し出た。

5  よって、原告は、福岡地方裁判所平成三年(ケ)第二五八号不動産競売事件、同年(ケ)第三八七号不動産競売事件及び同四年(ヌ)第一〇九号不動産強制競売事件について、同裁判所が作成した本件配当表のうち、被告に対する配当額九〇六九万七五六五円とある部分を九三八万〇四七九円に、原告に対する配当額六九七万三八四六円とある部分を八八二九万〇九三二円に、それぞれ変更する旨の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実はいずれも認める。

2(一)  同3(一)の事実のうち、原告が本件土地の占有を継続していることは否認し、その余は知らない。

(二)  同3(二)の事実は知らない。

(三)同3(三)の事実のうち、本件債権については知らない。また、一般に商事留置権に被担保債権と占有目的物との牽連関係は必要ないとされていることは認めるが、本件商事留置権の成立については争う。

3  同4の事実は認める。

三  被告の主張

1  占有の放棄又は喪失

原告は、平成三年五月末に本件宅地造成工事を完了した後、本件土地の占有を放棄又は喪失しており、本件商事留置権は成立しない。

2(一)  根抵当権の設定

被告は、破産者に対し、平成三年四月一日、三億二〇〇〇万円を貸し付けるとともに、右貸金の返還を担保するため別紙物件目録記載一1ないし4の各土地に別紙根抵当権目録記載の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定し、右根抵当権設定登記は同日経由された。

(二)  商事留置権と根抵当権との優劣関係

根抵当権は商事留置権に常に優先するか、少なくとも、被担保債権たる商事債権の成立、右被担保債権の弁済期の到来及び目的物の占有取得、という商事留置権の成立要件が整った時期と根抵当権設定登記の時期の先後によってその優劣を決すべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2(一)の事実は認め、(二)の主張については争う。

商事留置権と根抵当権の優劣は、被担保債権の弁済期が到来しているか否かにかかわらず、右被担保債権の債権者が目的物について占有を取得した時期と根抵当権設定登記の時期の先後によってその優劣を決すべきである。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、請求原因3において、本件商事留置権の成立を主張するので、以下検討する。

1  本件宅地造成請負残代金請求権の弁済期

証拠(甲五、六、七、一一、乙九、証人前畠一義)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は建築請負業等、破産者は不動産販売等をそれぞれ目的とする株式会社であるところ、右原告及び破産者は、平成三年二月二八日、営業のために本件宅地造成請負契約を締結し、原告は同年三月一日に右契約に基づいて本件土地の引渡しを受け、宅地造成工事を開始した。

破産者が同月一三日に工事代金の一部である二五〇万円を支払った後、同年五月末ころには右宅地造成工事は完成し、完成時払いの残額六〇四万九〇〇〇円について弁済期が到来したが、破産者は右残代金の支払をしなかった。

2  本件土地の占有状況

証拠(乙四の1、2、六の2ないし5、七、一〇の6、一七写真①ないし⑥、証人前畠一義、同坂田一郎)によれば、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件土地の形状

本件土地は、北、南、西の各方向からの進入口を有する平坦な土地で、その広さは二〇〇〇平方メートル以上である。

(二)  平成三年三月一日から同年六月一三日までの占有状況

原告は、平成三年三月一日から本件宅地造成工事に着手し、同年五月末ころに右工事を完了するまでの間、本件土地上にユンボ及びブルドーザーの重機のほか、L型擁壁、U字溝、コンクリートブロック並びに購入土地等の建設資材を置き、第三者が本件宅地造成工事現場に立ち入らないように入り口をバリケードで封鎖し、隣接する道路との境界にもロープや鉄パイプ類で仮囲いして本件土地を管理し、同年六月一日には本件各土地の後片付けを行ったが、同月上旬、破産者が倒産しそうだとの話を聞いたため、竣工検査の現地立会を残した状態でその後の作業を中止した(甲一一、証人前畠一義)。

(三)  平成三年六月一三日から同月一九日までの占有状況

破産者が二度目の不渡りを出して事実上倒産した同月一三日から、同月一九日までの間、本件土地上の県道五号線からの北側進入口付近にはユンボが一台置かれていた(乙一七写真③)が、右ユンボは原告の下請業者が本件宅地造成工事とは別の工事のために保管する必要があったため、本件土地上に一時的に置かせていたものである(証人前畠一義)。西側進入口付近には原告の開発行為許可標識が立てられており(乙一七写真①、②、④、⑤)、本件土地の一部には数個ないし一〇個程度のU字溝ブロックが放置されていた(同①、②、⑤)が、ロープ等の仮囲いは施されていなかった。

(四)  平成三年六月一九日から同年八月二〇日までの占有状況

原告は、同月一九日から同年八月二〇日まで、木造ガードマンボックスを賃借しており、同年七月一五日ころまでは右ガードマンボックスが北側進入口付近に設置されていた。また、右(三)のユンボも同時期まで同所付近に置かれていた。

本件各土地についての平成三年七月一一日付現況調査命令に基づき、同年八月一日に行われた本件土地の現況調査、並びに、同じく同年七月一一日付評価命令に基づく評価書作成のため、同年八月一日及び同月二八日の両日に行われた調査の各時点においては、右ガードマンボックスは倒れていた(乙五の3写真③、④)。また、北側進入口には本件土地が破産者の所有地であることを示す看板が設置され(乙四の2写真①)、西側進入口付近の原告の開発行為許可標識はなくなっていた(乙五の3写真②)。倒れたガードマンボックス付近に緑色金網フェンス数枚が積み上げられているが(乙五の3写真④)、右フェンスは同年七月一日から同月一五日まで右ガードマンボックス付近に設置されていたものであり(乙七写真①ないし⑩)、新たに搬入されたものではない。

(五)  平成三年八月二〇日以降の占有状況

平成三年八月二九日ころには、原告において、本件各土地の各進入口にロープを張り、右ロープに原告名で関係者以外立入禁止の表示を行ったうえ、西側進入口に開発行為許可標識を設置し直すなどの措置を施している(乙六の5写真①ないし⑥、一〇の6写真①、②)が、平成五年三月二五日付再評価命令に基づく再評価のために、同年四月八日に行われた調査の時点においては、右ロープ、立入禁止の表示及び開発行為許可標識のいずれも残存していない(乙八の3)。

3  本件建物建築請負残代金請求権の弁済期

証拠(甲九ないし一一、乙三、九、一二)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

原告と破産者は、平成二年一二月一七日、営業のために本件建物建築請負契約を締結し(甲九ないし一一)、原告は遅くとも同三年六月一日には建物を上棟して(乙一二)、同月一三日までに一億〇七六八万六五〇〇円の工事出来高を施行し、別紙物件目録三記載の未完成建物を建築した。

原告は、破産者より契約成立時払いの金四一〇〇万円の支払を受けただけで、上棟時払いの金四一〇〇万円の支払を受けていない。破産者は平成三年七月一一日に破産宣告を受け(乙三)、破産管財人岩本洋一が原告に対し、同年八月二八日、本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示をしたことにより、完成引渡時払いに対応する出来高相当分二五六八万六五〇〇円についても弁済期が到来した(乙九、弁論の全趣旨)。

三  商事留置権について

1  商事留置権の成立要件としての占有

商法五二一条にいう商人間の留置権は、債権者及び債務者双方にとっての商行為により発生した債権が弁済期にある場合、右債権の債権者が双方の商行為によって債権者の占有に帰した債務者所有の物又は有価証券を、右債権の弁済を受けるまで留置することができる権利である。

商事留置権も、債務の弁済を受けるまで目的物の占有を継続することによって、間接的に債権の満足を得ることができるという法定担保物権であることは民事留置権と同様であり、右にいう占有及びその継続の有無は、占有の態様、目的物の性状、第三者による占有侵奪の可能性等具体的事情を総合的に考慮し、公平の見地から客観的に判断すべきである。

2  本件商事留置権の成否

(一)  占有

原告は、前記二2(二)のとおり、第三者が本件宅地造成工事現場に立ち入らないように入り口をバリケードで封鎖し、隣接する道路との境界にもロープや鉄パイプ類で仮囲いして本件土地を管理していることからすれば、本件土地の性状に照らしても、平成三年五月末ころの本件土地に対する原告の占有は、商事留置権の成立要件としての占有と認めるに十分である。

(二)  その他の要件

双方にとって商行為である本件宅地造成請負契約によって発生した請負残代金請求権六〇四万九〇〇〇円については同年五月末日ころに弁済期が到来したこと、同様に原被告の双方にとって商行為である本件建物建築請負契約によって発生した請負工事残代金請求権のうち、上棟時払いの四一〇〇万円分については平成三年六月一日ころ、完成時引渡払いの一部である二五六八万六五〇〇円については同年八月二八日にそれぞれ弁済期が到来したこと、並びに、本件土地に対する原告の占有が原告と破産者の双方にとって商行為である本件宅地造成請負契約の締結によるものであることは、前記二1及び3のとおりであり、原告は本件商事留置権のその他の成立要件も充たしていると認められる。

3  債務者の破産と商事留置権

本件においては、破産者が平成三年七月一一日に破産宣告を受けているため(乙三)、破産と商事留置権の関係について検討する必要があるところ、破産法九三条一項前段は「破産財団に対してはこれを特別の先取特権とみなす。」と規定しており、その趣旨は、取引の安全の見地及び商事留置権の担保力を尊重し、特に商事留置権を特別の先取特権とみなして担保権の効力を持続させることにあると認められる。

同条同項前段の文言及び趣旨によれば、本件のように不動産を目的物とする商事留置権の被担保債権の債務者が破産宣告を受けた場合には、右商事留置権の目的物に対する留置的効力は失われ、破産管財人の占有に帰するものと解するのが相当であり、本件商事留置権が破産者の破産によって特別の先取特権に転化し、担保権としての効力を維持するためには、原告が右破産宣告のときまで本件土地の占有を継続していることが必要であると解すべきである。

4  原告による本件土地占有の継続

本件土地は三方向からの進入口を有する平坦な宅地造成地で、その広さも二〇〇〇平方メートル以上であることからすれば、前記二2(三)及び(四)のとおり、ガードマンボックスを設置したものの、各進入口にロープ等による仮囲いを施すなどの占有確保を行っていない本件土地に対する占有は必ずしも万全とはいえない。

しかしながら、本件商事留置権成立当時において、原告が右留置権に基づいて本件土地を占有していたと評価できることは前記三2(一)のとおりであり、右ガードマンボックス設置後の平成三年七月一日ないし四日、同月一〇日には原告の社員が本件土地に赴いて状況を確認しており、現に第三者によって本件土地の占有が侵害されるなどの事情もないまま破産宣告をむかえている本件においては、原告の本件土地に対する占有は破産者の破産宣告まで継続していたと認めるのが相当である。

5  本件商事留置権の特別の先取特権への転化

以上のとおりであるから、原告には、平成三年五月末ころ、本件宅地造成請負契約に基づく請負残代金請求権を被担保債権とする本件土地に対する商事留置権が成立し、本件建物建築請負契約に基づく残代金請求権のうち上棟時払いの四一〇〇万円については遅くとも同年六月一日に本件商事留置権の被担保債権に組み入れられ、右各債権を被担保債権とする商事留置権が、平成三年七月一一日の破産者の破産宣告によって特別の先取特権へと転化し、本件建物建築請負契約残代金の残額については同年八月二八日の破産管財人による本件建物建築請負契約を解除する旨の意思表示により、右特別の先取特権の被担保債権として組み入れられたと認めることができる。

四  商事留置権の転化した特別の先取特権と根抵当権の優劣

1  被告が破産者に対し、平成三年四月一日、三億二〇〇〇万円を貸し付けるとともに、右貸金の返還を担保するため本件根抵当権を設定し、右根抵当権設定登記が同日経由されたことについては当事者間に争いがないところ、被告は、本件根抵当権は本件商事留置権に優先する旨主張し、原告はこれを争うので、以下右優劣について検討する。

2  破産法九三条一項にいう特別の先取特権の順位

破産財団に属する財産の上に存する商事留置権が破産財団に対しては特別の先取特権とみなされることは前記三3のとおりであるが、右特別の先取特権の順位については、破産法九三条一項後段が「この先取特権は他の特別の先取特権に後る。」とするほかに何らの規定も存しないのであるから、商事留置権の転化した特別の先取特権と根抵当権の優劣については、物権の優劣関係に関する一般原則たる対抗要件理論により判断すべきであり、右特別の先取特権に転化する前の商事留置権が対抗要件を備えた時点と根抵当権設定登記が経由された時点の先後によって、その優劣を決するのが相当である。

3  商事留置権の対抗要件

商事留置権の公示方法は占有以外にはあり得ないところ、双方的商行為による債権の弁済期が到来し、商事留置権の実体的要件が充足されてはじめて、商事留置権の占有が対抗要件として機能するものと考えるべきである。

これを本件についてみると、原告は本件宅地造成契約に基づく工事の着工時である平成三年二月二八日から破産者が破産宣告を受けた同年七月一一日まで本件土地の占有を継続していたと認められるが、本件商事留置権の被担保債権である本件宅地造成請負契約に基づく残代金請求権(六〇四万九〇〇〇円)については平成三年五月末日ころ、本件建物建築請負契約に基づく残代金請求権のうち上棟時払い分(四一〇〇万円)については同年六月一日ころ、完成時引渡払いの一部(二五六八万六五〇〇円)については同年八月二八日ころにそれぞれ弁済期が到来したことは前記二1及び3のとおりであるから、同年五月末日ころよりも以前に本件商事留置権が対抗要件を備えていたとは認められない。

これに対し、本件根抵当権設定登記は同年四月一日には経由されていたというのであるから、破産者の破産財団の配当において、本件根抵当権者である被告は商事留置権者である原告に優先するというべきである。

五  本件配当表の内容

本件土地の最低売却価額は別紙物件目録記載一1の土地について八〇〇万円、同2の土地について八一九五万円、同3の土地について二〇五万円、同4の土地について、一三一万円、同5の土地について四二五万円、同6の土地について一六八万円、同7の土地について一二六万円の合計一億〇〇五〇万円であることが認められ(乙八の1、2)、本件土地は同額で一括売却された。

被告は、別紙物件目録記載一1ないし4の土地に設定された本件根抵当権によって本件商事留置権の転化した特別の先取特権に優先して弁済を受け、右根抵当権の設定されていない同5ないし7の土地については原告が優先弁済を受けうることは前記三及び四のとおりであるから、右各土地の売却代金額からそれぞれの土地についての共益費用(合計二八二万八五八九円)を差し引いた配当金合計九七六七万一四一一円のうち、本件根抵当権が設定されている別紙物件目録記載一1ないし4の土地の売却代金合計額を被告に、同5ないし7の売却代金合計額を原告にそれぞれ配当すべきこととなる。

本件配当表は、別紙案分計算結果一覧表に基づいて、別紙物件目録記載一1ないし4の土地についての配当金合計額九〇六九万七五六五円(同1の土地について七七八万三二七五円、同2の土地について七九七二万九九二〇円、同3の土地について一九四万二八四五円、同4の土地について一二四万一五二五円)を被告に、同5ないし7の土地についての配当金合計額六九七万三八四六円(同5の土地について四一二万二二三一円、同6の土地について一六二万九四九四円、同7の土地について一二二万二一二一円)を原告にそれぞれ配当しており、右と同趣旨のものであると認められるから、本件配当表を変更すべき理由はない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官草野芳郎 裁判官岡田治 裁判官杜下弘記)

別紙物件目録<省略>

別紙根抵当権目録<省略>

別紙配当表<省略>

別紙案分計算結果一覧表<省略>

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